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パンのある風景 @

                          ベッカライ ヨナタン      つかもと ともひこ

 ジャンピエールはホーキを持って止まっていた。

ジャンピエールはパリのパン職人。モンパルナス駅にほど近いパン屋さんで働く。
パン屋の朝は早い、、、といっても、ここの始まりは前夜の9時。
お店は小さいながらもアンティックな店構えが愛されている。
そして、ここで作られるルヴァン(サワドウ種)のカンパーニュは格別で、
有名デリカテッセンにも並べられる。
この店には、古き時代のパン屋さんの形が残っており、
パンを捏ねたり焼いたりする工房はお店の地下にある。

ジャンピエールは前夜の9時に仕事場に入り、
ルヴァンで仕込んだずっしり重く、ずんぐり黒い
伝統的なパンを数百本、仕込み、成型、そして焼成する。
その全てをひとりでこなす。
工房は8坪ほどの長方形で、地下だからもちろん窓はなく、奥にはギュラー式の石窯が構える。
ギュラー式の石窯とはパンを焼く窯の下に火床があるタイプの石窯で、
「魔女の宅急便」でキキの働くグーチョキパン店で使われていた窯だ。

石窯に向かって右に成型台がある。
発酵したパン生地を丸くしたりしてパヌトンと呼ばれる
発酵かごに入れてさらに発酵させる。
昔はこの成型台の下がパンを捏ねる箱になっていて、
職人が数十分もパン生地を手で捏ねていた。
捏ねた生地をその箱で寝かして、発酵が終われば取り出し上の成型台にのせる。
基本的にはこの台付捏ね箱と石窯だけで全てができるきわめて合理的な工房である。

生地の成型には力を加えないし、カンパーニュの特徴である柔らかい生地のために
ざっくりと丸めてパヌトンに入れ、窯の前で自然に発酵させる。
発酵したパン生地は、ひとつひとつ長いピールに乗せられ、窯に入れられる。
石窯でじっくり焼かれたカンパーニュが芳しい香りと共に職人の手元に戻ってくる。

パンを仕込み、、発酵させ、焼き上げる。
その工程を時間をずらせて次から次と繰り返した午前3時頃、 
ジャンピエールは、丁寧に床を掃き清める。静かに。
とおもっていると、ピタッとその動作が止まる。一時停止。一時睡眠。
まるで蝋人形のように、工房の真ん中でホーキを持ったまま彼は眠ってしまった。
20秒ほど経って、「ジャンピエール、ボンジュール!」と耳元で囁くと、
スイッチが入ったようにバサッと長いマツゲが開いて、
掃除の続きが再開される。

この一時停止はパン生地を丸めている時にもあり、
パン生地をまさに窯に入れようとするハイライトシーンにも起こる。
石窯の扉を開いて300度近い熱気を顔に浴びながら、
彼は眠ってしまう。

そんなことを繰り返しているうちに、外は夜明けをむかえ、店のスタッフが出勤しはじめる。
1階のお店から「ジャンピエール、コーヒーが入ったよう!」
と、開店前の準備をする女の子の声がかかる。
気持ちのよい朝の始まりと共に、ジャンピエールの仕事は終わる。





                  
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